当院では多血症の精査・治療を行っております。血液専門医による診察・検査をご希望の際にはお気軽にご相談ください。
本日は多血症についてお話いたします。
皆様は健診などで血が濃いなどと言われたことはありませんでしょうか。
血液は、赤血球、白血球、血小板、血漿という成分からできています。
多血症はこの中の赤血球が増えてしまう病気のことを言います。
簡単に言うと貧血の逆のイメージで血が濃くなることですが、
濃くなりすぎると血液の粘性が強くなり、細い血管を通過しにくくなります。
そのため、さまざまな症状が起こります。
発症し初期の段階では症状を認めないことが大半です。
病状が進行してくると、目や口の粘膜の充血・頭痛・めまい・耳鳴り・赤ら顔・高血圧・身体の痒み・四肢末端の痛みや灼熱感(肢端紅痛症)などが起こります。
入浴後の体のかゆみは水原性掻痒症とよばれ真性多血症(後述)に特徴的な症状となります。
(かゆみのせいでお風呂に入るのを嫌がる方もみえます。)
また更に悪化すると、血管内の血の流れが滞り、血液がうっ滞すると血栓(血の塊)ができます。
血栓が血流に乗って心臓や脳に達すると心筋梗塞や脳梗塞、肺塞栓症を起こす危険があり注意が必要となります。
真性多血症の場合には、急性白血病に移行するなどの場合も認めます。
多血症は原因によって真性多血症、二次性多血症、ストレス多血症などに分類されます。
ストレス多血症は、禁煙や生活習慣病の改善などは重要ではありますが、血漿量が減少することで見かけ上の赤血球が増加しているように見える病気になります。
ストレスが原因と考えられていますが、因果関係は明確になっていません。
中年男性に多く、赤ら顔、肥満、喫煙者が多いなどの特徴を持っています。
あくまで見かけ上、赤血球が増加しているようにみえるだけであり血液粘性そのものはかわりにくいため、血栓症などにつながることは少なく、直接的な多血症に対する治療は行わないことが多いです。
一方、二次性多血症は、他の病気や環境因子が原因で生じる疾患です。
例えば、肺の疾患や高山病、心臓病、腎臓病などが原因となって生じることがありま
二次性多血症の原因は大きく、以下の2つに分けられます。
・組織の低酸素状態
・エリスロポエチン産生の異常亢進
組織の低酸素状態とは、慢性的に組織の酸素が不足している状態をいいます。
例えば、高地滞在、先天性心疾患(右左シャントなど)、COPDや肺気腫などの慢性閉塞性肺疾患、睡眠時無呼吸症候群、喫煙などとなります。
組織の低酸素状態においては、低酸素状態を改善しようとして赤血球が増加するという病態になります。
これらの病態の中で多い原因としては睡眠時無呼吸症候群や喫煙になります。
余談ですが、高地トレーニングは組織の低酸素状態による多血症を応用したものです。
高地では気圧が低いため血液の中に入ってくる酸素が少なくなり、血液が運ぶ酸素の量も減ります。
このような状態に対処するために、体の中では種々の代謝機能が働き始めますがその1つが赤血球(ヘモグロビン)の生産を増やして、一定の血液が運ぶ酸素の量を増やすということです。
この状態で平地に下りると、運べる酸素の量が増え、運動能力が高まるということになります。
但し、これは1,2ヶ月しか有効ではありません。
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に何度も呼吸が止まったり呼吸が浅くなったりして低酸素状態となる疾患です。
組織が低酸素となるため、酸素をたくさん運ぼうと赤血球を増加させて多血症となります。
肥満や中枢性の疾患などが原因で起こり、
口や鼻から肺の入り口である声帯に至る空気の通り道が細くなったり呼吸自体が止まってしまい発症します。
周囲の方からいびきを指摘される、夜間の睡眠中によく目が覚める・息苦しくなって目覚める、朝起きると頭痛や体のだるい感じがある、日中の眠気などで気づかれます。
多血症から睡眠時無呼吸症候群を疑うこともあります。
喫煙は多血症の原因として最も多いものになります。
タバコから発生する一酸化炭素は、ヘモグロビンと強力に結合します。
するとヘモグロビンが酸素と結合することができなくなり、酸素をしっかり運ぶことができなくなります。
体は赤血球の数を増やして補おうとするので、結果として赤血球が増加します。
エリスロポエチン産生の異常亢進とは、何らかの原因でエリスロポエチンが異常に増加している病態を指します。
原因としてはエリスロポエチン産生腫瘍や腎疾患が挙げられます。
エリスロポエチンとは、主に腎臓から分泌される赤血球の分化産生を促進するホルモンです。
骨髄の造血幹細胞に作用し、赤血球の産生をコントロールしています。
組織内で酸素が足りなくなると、体は赤血球を増加させることで酸素の運搬能力をあげようとします。
すると腎臓でエリスロポエチンがたくさん産生され、造血幹細胞から赤血球が作り出されます。
その後、赤血球が増加し酸素が十分に行き渡るとエリスロポエチンの産生は停止し、赤血球数は正常に戻ります。
重要なのは、いずれの二次性多血症の場合でも、エリスロポエチンが増加することです。
「真性多血症」と「二次性多血症」は、エリスロポエチン濃度がどれくらいかを測定することで判断されます。
エリスロポエチン濃度が増加していると二次性多血症、低かったり正常範囲内であれば真性多血症とされます。
一方で真性多血症は造血幹細胞が異常を起こし、赤血球が過剰に増殖してしまう疾患です。
人体には、血液を作る場所である「骨髄」という場所が骨の中にあります。
骨髄の中にある造血幹細胞は、血液の中にある「赤血球」「白血球」「血小板」という細胞すべてを作っています。
しかし、造血幹細胞が異常な状態になってしまうと、これらの細胞が過剰に作られて、血液中に多くなり細胞数の割合もおかしくなってしまいます。
この病態を骨髄増殖性腫瘍といいます。
真性多血症は骨髄増殖性腫瘍の一つとなります(骨髄増殖性腫瘍には慢性骨髄性白血病・真性多血症・本態性血小板血症・骨髄線維症などがあります)。
まとめますと、真性多血症は、骨髄にある造血幹細胞と呼ばれる細胞が異常な状態になって起こる病気です。
では真性多血症の原因ですが、真性多血症には原因となる遺伝子異常があることが知られています。
遺伝子異常の一つである「JAK2変異」と呼ばれる異常が特に注目されています。
JAK2は、血液細胞の成熟や増殖を調節するためのシグナル伝達経路に関わるタンパク質です。
JAK2変異がおこるとこのシグナル伝達経路が異常に活性化し、造血幹細胞が異常な割合で増殖します。
そのため赤血球が過剰に産生されてしまいます。
赤血球が多くなりすぎるため、体は赤血球をつくる必要がなくなるので、エリスロポエチンは低値になります。
JAK2変異は、真性多血症患者の約95%に見られるとされていますが、他の遺伝子異常(calr、MPLなど)も原因として関与していることが明らかとなっています。
真性多血症は基本的に外来通院で治療を行います。
治療による完治は難しいですが、血栓ができるリスクを下げることが可能です。
はじめに、体の中から血液を抜き取る瀉血療法を行うことで赤血球の数を減らします。
200~400mlの血液を抜くことで血液内の赤血球の量を減少させます。献血を行うのと同じイメージになります。
外来受診時に血液検査で赤血球の値を確認したうえで、月に1~2回行います。
また血栓を作りにくくする抗血小板薬を内服していただくこともあります。
アスピリンなどのおくすりの内服で、血栓をできにくくします。
瀉血や抗血小板薬の内服でも十分にコントロールすることができなかったり、血栓症を合併してしまった場合には、抗がん剤による化学療法や分子標的療法によって赤血球を減らすことを検討します。
抗がん剤の一種であるハイドロキシウレアを1日2~3回内服することにより、血液を作りにくくし赤血球数を減少させます。
また、真性多血症には上記のような遺伝子変異を認めています。
この遺伝子変異をターゲットとした治療薬(ルキソリチニブ)が2015年に承認されました。
上記の治療で効果が不十分な場合に用いられます。造血幹細胞のはたらきを抑え、赤血球を減少させます。
多血症は、多くの場合、偶然検査で発見されます。
何かしらで多血症を指摘された場合には、みずの内科クリニックにお越しください。